これからの「正社員」の話をしよう 〜雇用と労働を巡る考察〜
どうも!
前回は大変にふざけたエントリーを投稿してしまいまして、失礼しました。
新生「フリハク」としまして、今回は「正社員」について考えてみたいと思います。
2015年は「働き方の改革元年」になるということは、以前も記事に書いたことがあります。
もうこれから先、これまでと同じ意識で働いていくことは困難になります。
職場を見渡してください。メンバーはどんどん高齢化していませんか?定年再雇用の人はどれくらいいますか?若い人は入ってきていますか?ビジネスは右肩上がりになっていますか?新規の事業にはどの程度投資できていますか?
限界が近いのは誰もが分かっています。だからってどうしようもない?いいえ。ピンチはチャンスです。今こそ、恐れずに真剣に考えるときが来ているのです。
photo by Alba Soler Photography
今回は雇用・労働という切り口で、これからの「正社員」を考えてみたいと思います。発言の根拠については、脚注としてまとめる形で掲載致します。
少々、長い記事になりますが、こちらのブログ様でも、「記事を量産せずに、しっかりコンテンツを作りこむ」ことが大事と書かれておりましたので、2日間かけて、しっかり作ってみました。
ではさっそく、雇用からみていきましょう!
雇用はどうなるか?
・職場の高齢化が急速に進む。
雇用の問題を考えるのに、人口の問題は避けて通れません。
2010年には約1億2800万人だった日本の人口は、2030年には1億1600万人あまりに減少します。それにともなって、日本は世界屈指のスピードで高齢化は加速させ、2030年には人口の3分の1が65歳以上になります。*1
定年制の廃止や再雇用など、企業は高齢化に対してさまざまな対応を迫られています。現状では、変化に対応するのが精一杯で、再雇用者にきちんとした仕事を与えられている企業は少ないようです。*2
経営者としては、できれば再雇用は選択して欲しくないというのが、本音のようですが、一方で失業したくない再雇用者とのギャップは深まるばかりです。
再雇用者をうまく活用できる企業が、これから生き延びていくことになるのは間違いありません。
また、再雇用者向けのリクルートサービスなども展開が加速するでしょう。
・人口は減少するが労働力の不足にはならない
人口は減少しますが、それがすぐに労働力の不足ということにはなりません。*3
労働者が減ったとしても、省力化や合理化が行われ、減少をまかなえるようになるという理屈のようです。このように書くと聞こえは良いですが、これは職種単位でリストラが起こることを意味します。
付加価値の低い仕事や、データベース化できる仕事は、本格的にアウトソーシングされていくことになるでしょう。少し前に、10年後に無くなる仕事というのが話題になりました。それが起こる背景としては、IT化の他に、このような人口減少という要因も加わるかもしれません。これに伴う労働の変化については後で書きます。
・さらなる流動化と多様化
企業が健全な成長を続けるには人の数を増やす必要があります。しかしこの先、雇用を増やそうと労働市場を見たとき、そこは高齢者で溢れかえっているわけです。当然、企業も今のままではいられません。雇用の間口を広げたり、形を変える必要が出てきます。
今の新卒一括採用では、若い労働力をまかなえなくなる企業は増えるでしょう。新卒一括採用を変えることは、それほど難しいことではありません。企業は単に、新卒採用の募集要項に「◯◯年卒業までの既卒も含む」と書けば良いだけです。ソニーなど一部の大企業は、もう既卒採用を始めているようです。
しかし、この先は一歩進んで、新卒・既卒という言葉自体が過去のものになっていくかもしれません。慶應大学経済学部の太田教授は次のように述べています。
今後、新卒一括採用重視という「人事のマインドをリセット」し、日本人と外国人、新卒と中途を線引きせずに、フラットな形で「企業に必要な能力を持つ人」を採用するシステムへ変えていく必要がある*4
企業もこのような考え方に、シフトせざるを得ないと思います。新卒の人は経験が無いだけに、苦労する世の中かもしれないですね。学生のうちにしっかり専門性のある研究をしておく必要が出てきそうです。
また、女性や意欲のある若者を活用するために、新しい雇用区分を作る必要も出てきます。事実、総合スーパーなどでは、主任や係長といった本来ならば正社員が行うべき仕事も、パートや非正規が代替するようなことが起きています。そうなると正社員とパートの違いって何?という疑問が生じます。そこで神戸大学の平野教授は「ハイブリッド型社員」というものを提唱しています。*5
非正規社員をハイブリッドの雇用区分に転換する仕組みを設けることでモチベーションが上がり、特殊技能に自己投資する効果が生まれる。また、多様な雇用区分を用意することにより、ハイブリッドへの転換に意欲的な人々を選抜する効果があるという。
さらに、「ハイブリッドから正社員に転換する仕組みや、ワークライフバランスの観点から正社員がハイブリッド社員に転換するといった柔軟な雇用が可能です。ただしそのためには、分散する個々の人材を見極め、個別的・能動的な雇用区分のマネジメントが重要になります」と強調する。
このようなカタチの雇用形態も生まれてくるでしょう。
ユニクロや日本郵政が採用した転勤のない「地域限定社員」という雇用区分も、今後は広く採用されていく可能性が高いです。
「雇用はどうかるか?のまとめ」
- 職場の高齢化は急激に進み、再雇用が大きな問題になる
- 労働力の不足はリストラで補われる。それによって無くなる仕事がある
- 雇用の間口は変化する。新しい雇用区分が生まれる
労働はどうなるか?
・資本家と労働者の格差拡大
「正社員」という大筋からは外れますが、労働を考えるならば資本主義にも触れておかなくてはなりません。ピケティ著「21世紀の資本」という本が飛ぶように売れています。なぜ、売れているかというと、これまでの資本主義の常識を覆すような発見があったからです。
これまでは「資本主義が発展すると、一時的に所得格差は拡大するが、やがては縮小する」というのが経済学の定説でした。しかし、ピケティは膨大なデータを調べて、「戦争などの特殊な状況が無ければ、資本主義では所得格差は広がる一方だ」ということを証明してしまったのです。
これ以上の詳しい言及はここでは避けますが、これだけは頭に入れておいてください。
「これから先、貧富の差は拡大が続いていく。労働者が頑張ってお金を稼いでも、金持ちはそれよりもずっと早いスピードでお金を稼いでいく。」
本格的な所得格差デモが、日本でも起こるかもしれません。
・労働の中でも、二極化が深刻化する
話を本筋に戻します。実は労働の中でも、深刻な二極化が起こりそうです。日本で、労働の二極化と言った場合は「正社員」と「非正規」の労働条件の格差のことを言います。既に語り尽くされていることなので、ここではアメリカで起きている現象に注目しましょう。
マサチューセッツ工科大学のデービッド・オーター教授は興味深い発見をしました。*6
コンピューター化によって雇用に二極化が起きているのです。そして、そこではこのような結果になっていました。
「実際に賃金が上昇しているのは高学歴の労働者のみであり、未熟練労働者や中程度のスキルの労働者は賃金が低下している」
コンピューター化がもたらしているのは、高スキル労働者への需要の一極集中と、スキルを持たない人たちの賃金低下です。この研究の注目すべき点は、中程度のスキルの労働者ですら、職が減り、賃金が減っている点です。
オーター教授は、「コンピューター化によって必ずしも賃金の両極化は起きない」と述べています。しかしながら、これからの労働を考えるほど「デキる社員とデキない社員」に格差が生まれるのは自然だと思います。それだけでなく、デキない社員には仕事そのものが無くなる可能性を暗示していると思うのです。
・クラウド化する労働市場
人口減少の項目で、省力化や合理化について少し触れました。恐らくこれからの労働のキーワードになるのが「クラウド化」です。
労働の「クラウドソーシング」が本格化すれば、従来型のアウトソーシングすら必要とされなくなるかもしれません。*7
既に経理の仕事などはクラウドに置き換わってきています。*8
株式会社メイテックの西本社長は「労働市場のクラウド化が鍵になる」と述べています。*9
雇用の流動化も今まで以上に進み、柔軟性や多様性が増すでしょう。企業は一定数の人材を常に確保しておくのではなく、ビジネスの状況に応じて、必要なときに必要な人材を必要なだけ、共有化された人材のリソース・プールから確保する――まさに労働市場をクラウドのごとく活用することがますます盛んになっていくと予想されます。
逆に被雇用者個人も、クラウド化した労働市場をうまく活用すればよいのです。自分が望むキャリアアップの計画やワーク・ライフ・バランスなどと照らし合わせて、必要なときに必要な企業で必要なだけ雇用されて働くといったスタイルが可能になります。
高齢化や少子化といった問題を乗り越えるには、自社のリソースだけでなく、クラウド化された人材リソースを活用するというのが、今後の労働市場では当たり前になるのだと思います。
「労働はどうなるか?のまとめ」
- 金持ちと労働者の所得格差は拡大し続ける
- 労働者の中でも、格差の拡大が進み、職を失う人も出てくる
- コアでない仕事はクラウド化が起こる。労働も共有されたリソースになる
以上が私の雇用と労働に対する将来の予想です。
では、これらをふまえて、これからの「正社員」はどうすれば良いのか述べたいと思います。
これからの「正社員」はどうすべき?
- 専門性の高い技術やスキルの取得
- クリエイティブな取り組みで成果を出す
- 会社のコア事業に関わり続ける
これから先、企業の社員として働いていくとしても、何らかの専門性やスキルは要求される時代になります。日頃から一芸に秀でた仕事をしておくべきだと私は思います。しかし、専門性やスキルだけでは、より高度な人間がいれば、置き換えられてしまいます。そうならないために、クリエイティブな仕事に取り組みましょう。新規事業があれば望ましいですが、それらがなくても改善提案や新しい試みには積極的に挑戦しておくべきです。そうすることで、替えの効かない人材でいられるかもしれません。
そして、大切なのは会社のコア事業に、できるだけ近いところで働くということです。これからの会社経営は、コア事業以外の部分が、いろいろなサービスに置き換わっていきます。その時に切り離されないためにも、会社のコアな部分には関わっておくべきです。
これらの3つができていれば、例え失業したとしてもまたやり直せるはずです。
時には社内の評価だけでなく、労働市場での自分の価値についても意識しておくことが、リスクを抑える意味でも大切ではないでしょうか?
大変長い記事になってしまいました。
最後まで読んでくださった方には心より感謝申し上げます。
ぜひ感想のコメントを頂けるとうれしいです。
ではまた!
*1:http://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/report/trend1.htmlより引用
*2:http://diamond.jp/articles/-/48213を参考
*3:http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/59/index1.htmlを参考
*4:http://www.senken.co.jp/news/【経営】アデコ「新卒一括採用の限界と今後」/より引用
*5:http://special.nikkeibp.co.jp/ts/article/0ia0/104200/
*6:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0GP09S20140825
*7:http://www.accenture.com/SiteCollectionDocuments/jp-ja/PDF/outsourcing/Accenture_Outlook_June_2011_title4.pdf
*9:http://special.nikkeibp.co.jp/ts/article/a00f/105713/vol3/index.html